Hailu Mergia

hailu_mergia2013年にAwesome Tapes From Africaを知った。主宰するBrian Shimkovitzが2台のカセットデッキを使って、アフリカのカセット・テープでCTJ (カセット・テープ・ジョッキー)をする映像を見た時、体に電気が走った。彼は「中でも特に気に入ったもの」のリイシューも手がけており、これまでのリリースのなかでも一番の偉業と思われるのは、エチオピアの鍵盤奏者、Hailu Mergia (この動画では女性ナレーターがハイル・マギアと言っているような気がしたので「マギア」もしくは「ムギア」が正しい読みかもしれない)のリイシューだと思う。
70年代のエチオピア。巨人Mulatu Astatkeを台風の目とするエチオピアン・ジャズ/ファンクの熱は最高潮に達していた。アディスアベバの灼熱と砂埃を身に纏いながら、他を寄せ付けない漆黒のグルーヴの中にHailuは居た。Mulatu Astatkeがバンマスを務めるWalias Band。彼はそこでキーボードを務めた。紛れも無く、超一流のミュージシャンである。
Mulatuは現代まで第一線のジャズ・プレーヤーとして活躍し、世界に知られる巨人となった。しかし当時のエチオピアの情勢などの事情で他の多くの仲間と同じように、Hailuは音楽で飯を食うことを諦め普通の生活に戻った。彼は空港でのタクシー・ドライバーに就いた。タクシー・ドライバーは気に入っていたが、音楽も生活からは切り離せないものだった。タクシーのトランクにはいつも電池式のキーボードを忍ばせ、時間があくと息抜きにタクシーのバックシートでキーボードを演奏する。
彼もまさかこんなことになるとは思ってもなかっただろう。Awesome Tapesのリイシューで世界が仰天した。もちろん僕も完全にやられてしまった。これは彼がWalias Bandの後に務めたバンドでアメリカに行った時、スタジオで一人で篭って録音したもののようで、遊び半分みたいなところもありカセットでしかリリースされていない。安いプリセットドラムに合わせてせわしなく動く右手と独特の旋律。その感覚は形容しがたかったが、なんとか言い表すとすれば僕にとっては「疲れが吹き飛ぶ」感覚だった。
「なんてサウンドだ!」「Mulatuと演奏していたやつらしいぞ」「しかも今は空港でタクシードライバーをしてるだと!」と世界中の好事家が注目した。当の本人は驚いたようだが嬉しかったみたいだ。それほど時間はかからずに、彼はアメリカなどでもまたライブを行うことができるようになった。もちろん彼の腕は錆びるどころか研ぎ澄まされていた。今も「本業」のタクシー・ドライバーをしながら演奏と録音を続けている。

そんな彼の秋の空のように澄み切った映像が公開されていた。

アフリカのレコードのなかでおそらく1番高い値段で取引されてるんじゃないか?と言われている彼のアルバム“Tche Belew” 近日ATFAからリイシュー予定だそうです。Mulatuも参加で非常に楽しみだ。

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